「いちご農家って、毎朝4時に起きて収穫してるんでしょ?」
就農や農業転職を考えている人からよく聞かれる質問です。でも、実際はそう単純ではありません。
埼玉県吉見町でいちご農家を7年やっている私の場合、一日の動き方は季節によって別の仕事と言っていいくらい違います。冬と夏では、起きる時間も体力の使い方も、休める日数も変わります。
この記事では、SNSや動画では見えにくい「いちご農家の本当の一日」を、収穫期・育苗期・定植期の3つに分けて、時間の流れに沿って書いていきます。「就農したら毎日この働き方ができるか」を、自分の生活と照らして判断する材料にしてください。
この記事でわかること
- 収穫期(冬〜春)の一日の流れと時間配分
- 春夏秋冬で変わるいちご農家の主な仕事内容
- いちご農家に向いている人・続けられる人の特徴
なお、ここで紹介するのは埼玉県吉見町・丹羽いちご園(土耕・促成栽培)の場合です。地域や栽培方式(土耕/高設、促成/半促成など)によって時期や作業内容は変わるので、参考事例として読んでもらえると嬉しいです。
[st_toc]
いちご農家の一日は、季節で大きく3つに分かれる
結論|「毎日早朝4時起き」は誤解
結論から書きます。いちご農家が早朝に動くのは、収穫期(およそ12月〜5月)の朝だけです。1年中ずっと4時起き、ではありません。
夏は早朝の水やりこそありますが、収穫が無いぶん収穫期ほどの「分単位の急ぎ仕事」はありません。秋は定植期で、日中の作業が中心です。
つまり「早朝4時起き」だけを聞いて尻込みしている人は、いちご農家の一年のうち半分の姿しか見ていないことになります。
一年を通した季節カレンダー
いちご農家の1年は、ざっくりこのように動きます。
- 12月〜5月:収穫期。早朝収穫・出荷・観光対応がメイン
- 6月〜9月:育苗期。来シーズンの苗を育てる。一番地味で、一番きつい時期
- 10月〜11月:定植期。苗を本圃(ハウス)に植える
「いちご=夏のフルーツ」と思っている人もいますが、いちごの旬は冬〜春です。夏に出回るいちごは輸入物か業務用がほとんどで、国内農家の主戦場は冬〜春のハウス栽培になります。
この前提を踏まえて、それぞれの季節の一日を見ていきます。
冬〜春の収穫期(12月〜5月)の一日
朝の収穫から箱詰め・出荷まで
収穫期の朝は、私の場合は5時〜6時くらいに起きてハウスへ向かいます。気温が低い朝のうちに摘んだほうが、いちごの実が締まっていて日持ちもいいからです。
収穫はおおまかにこんな流れです。
- 5時半〜:ハウスの中で熟したものから順に摘む
- 8時〜:作業場でサイズ分け・パック詰め
- 9時〜:JA出荷分のトラック積み込み、直売所への配送、ネット販売の発送準備
収穫量が多い日は午前中いっぱいかかります。寒い時期は手がかじかむので、薄手のインナー手袋+ゴム手袋の二枚重ねが定番です。摘葉や葉かきもこの時期に並行してやるので、ステンレス製の小さなハサミを腰にぶら下げて作業しています。
午後は摘葉・株管理・観光対応
午前で出荷が片付くと、午後はハウス内のメンテナンスに入ります。
- 古い葉をとる「摘葉」
- 余分なランナーやわき芽の整理
- 病害虫のチェック(うどんこ病・ハダニなど)
- ハウス内の温度・湿度の管理(換気の開け閉め)
うちはいちご狩りもやっているので、土日はここに観光対応が乗ります。お客さんに品種の違いを説明したり、摘み方をレクチャーしたり、農家らしくない接客の時間がそこそこ長いです。
「実際に農園を見てから就農を考えたい」という人は、まず体験してみるのもひとつの手だと思います。うちのいちご狩り料金や開催時期はこちらにまとめています。
帰宅後にやる事務作業
夕方17〜18時にハウスを閉めて家に戻ったあとも、農家には「事務」が残っています。
- 出荷数・売上の記録
- 翌日の出荷予約・問い合わせ対応
- SNS・ブログでの発信
- 確定申告に向けた帳簿づけ
会社員と違って勤怠管理は自分でやるので、ここを甘くするとあとで自分が困ります。経費・売上の帳簿づけが不安な人は、農家の確定申告のやり方|初心者が最初に押さえる準備と注意点を先に読んでおくと、就農1年目で慌てずに済みます。
いちご農家の主な仕事内容|一日の中で何をしている?
ここまで収穫期の時間軸を見てきましたが、いちご農家の仕事は「収穫だけ」ではありません。一日の中で、実は4つの仕事を並行で回しています。スケジュールの前に、まずは仕事内容そのものを一覧で押さえておきましょう。
収穫と選別
収穫期のメイン作業は、ハウスの中で熟したいちごを摘み取り、サイズや形ごとに分けて出荷用にパック詰めしていく仕事です。
「ただ摘むだけ」と思われがちですが、実際は熟度の見極め・キズの有無・ヘタの状態を一粒ずつチェックしていく細かい作業の積み重ねです。私の感覚では、収穫よりも選別のほうが時間がかかります。スーパーに並ぶきれいなパックの裏には、農家がしゃがんで一粒ずつ向きを揃えている時間があります。
直売・出荷・いちご狩り対応
収穫したいちごをお客さんに届けるところまでが農家の仕事です。出口はおもに4つあります。
- JAや市場への出荷
- 直売所への配送・補充
- ネット販売の梱包・発送
- いちご狩り来園者への接客
うちの場合、土日はいちご狩りのお客さん対応で半日が埋まる日も普通にあります。「農家=畑にずっといる」というイメージとは少し違って、接客業の顔も持っているのが現代のいちご農家です。
葉かき・摘果・病害虫の確認
収穫の合間に欠かせないのが、株の状態を整える仕事です。
- 古い葉や黄ばんだ葉を取り除く「葉かき」
- 小さすぎる実や形の悪い実を間引く「摘果」
- うどんこ病・ハダニ・アブラムシなどの早期発見
私はハウスを歩くときに、必ず数株はじっくり葉の裏まで確認するようにしています。病害虫は1日見落とすだけでハウス全体に広がることがあるからです。地味ですが、収量を守るうえで一番効いている作業だと思っています。
苗づくり・定植・ハウス管理
収穫期が終わったあとの仕事も、いちご農家にとっては「日常の仕事」です。
- 夏:親株からランナーを伸ばして子苗を増やす「育苗」
- 秋:育てた苗を本圃に植え替える「定植」
- 通年:ハウスの温度・湿度・換気・潅水の管理
収穫が無い時期も毎日ハウスを開け閉めし、水をやり、苗の様子を見る。「収穫期以外も働いている」のがいちご農家の現実です。次の章から、収穫期以外の季節の動きを具体的に見ていきます。
夏(6月〜9月)の育苗期の一日
朝晩の水やりと温度管理が最優先
夏は「収穫はゼロ、でも一日の動きは止められない」時期です。理由は、来シーズン用の苗を育てているからです。
苗は小さい鉢やポットで管理しているので、土の量が少なく、真夏は朝晩2回の水やりがほぼ必須になります。私の場合は、朝6時前と夕方17時頃にハウス・苗床を一回りします。
気温が35度を超える日は遮光ネットを張って光と温度を下げます。換気・送風機・遮光ネットの組み合わせをどう調整するかで、苗の状態がかなり変わります。
ランナーから子苗を増やす作業
夏のメイン作業は「ランナーから子苗を取って増やす」ことです。親株から伸びるツル(ランナー)の先に小さな苗ができるので、それをポットに受けて根を張らせていきます。
地味な作業ですが、ここで取った苗の数と質が、翌シーズンの収穫量を左右します。私が新規就農した1〜2年目に一番苦戦したのも、この育苗でした。苗を作りきれなくて、翌年の収量が思ったほど伸びなかったことがあります。
一番きついのは「収穫が無い夏」
正直に書くと、いちご農家で一番きついのは夏です。理由は、
- 収穫が無いので売上が立たない
- でもハウスの管理・水やりは毎日休めない
- 気温が高くて作業環境が厳しい
- 「やる気が落ちる」のに「結果はすぐ出ない」
SNSや動画で見るいちご農家の「華やかな部分」は、ほぼ収穫期の映像です。夏の苗作りの地味さを乗り越えられるかどうかが、就農後に続けられるかどうかの分かれ目になると私は思っています。
夏を乗り切るための具体的な工夫
「きつい」で終わらせると、これから就農する人がただ怖くなるだけなので、私が実際にやっている乗り切り方も書いておきます。
- 作業は朝夕の涼しい時間に集中させる:日中の10〜15時はハウス内が40度近くなるので、無理な作業はしない。事務・帳簿・発送準備など屋内仕事をこの時間に回す
- 朝夕のルーティンを固定する:朝6時前にハウスを見回り、水やりと換気の調整。夕方17時頃にもう一度。同じ時間に同じ順番で回ると、苗の小さな変化に気づきやすい
- 遮光ネットで光と温度を下げる:真夏は遮光率30〜50%程度を目安に張る。ハウス内温度が体感で2〜3度下がるだけでも、苗のストレスがぐっと減る
- 水やりは「量より頻度」で管理:ポット苗は土の量が少ないので、たっぷり1回より朝夕こまめに。葉の様子と土の乾き具合を毎回確認する
- 家族・パートに作業を分散する:一人で抱えると確実に潰れる。うちでは草取りや苗の見回りを家族に少しずつお願いしている
夏は「根性」より「段取り」で乗り切るのが、結果的に長く続けるコツだと感じています。
秋(10月〜11月)の定植期の一日
本圃の準備と苗の植え付け
秋になると、夏に育てた苗を本圃(収穫用のハウス)に植え替えます。これを「定植」と呼びます。
定植は時期と作業が集中するので、ここから2〜3週間は朝から夕方までずっと植え付け作業になります。土づくり・畝立て・マルチ張り・苗運び・植え付けと、流れ作業のように進めます。
うちでは家族・パートさんに入ってもらってチームで進めますが、一人で就農している人は秋がもう一つのピークになります。
ハウスのビニール張り替え
定植と並行して、ハウスのビニールやマルチを張り替える年もあります。ビニールの寿命はだいたい3〜5年で、紫外線で劣化していくので、傷みがひどい年は秋のうちに張り替えておかないと、冬の暖房効率が落ちます。
このあたりの設備投資・資材費は、新規就農で意外と見落とされがちな部分です。資金計画をこれから立てる人は、新規就農の資金はいくら必要?農家が語るリアルな費用と調達法と、新規就農の補助金はどう使う?申請前に準備すべき計画と注意点を合わせて読むと、自分のスタートに必要な金額の見当がつきやすいと思います。
会社員と比べて違うところ・続けられる人
自分で時間を組めるメリット
いちご農家の働き方には、会社員と違う良さもあります。一番大きいのは、一日の時間配分を自分で決められることです。
子どもの行事に合わせて午前で作業を切り上げる、夕方早めにあがって家族と過ごす、といった調整がやりやすい。これは雇われ仕事ではなかなかできません。
天候優先で予定が崩れるデメリット
一方で、予定どおりに動けないことも多いです。雨・台風・寒波・猛暑、どれもこちらの都合は聞いてくれません。
「明日は遠出する」と決めていても、ハウスの被害対応が必要になればキャンセル一択です。家族の予定より、ハウスと植物の都合が優先になる場面が普通にある。これは就農前に知っておいたほうがいいと思います。
私が7年続けてわかった「向いている人」
あくまで私の感覚ですが、いちご農家を続けられている人にはこんな共通点があると感じます。
- 「収穫期の華やかさ」より「夏の地味な育苗」を楽しめる
- 天候で予定が崩れることに、いちいち腹を立てない
- 事務・帳簿・SNS発信など、農作業以外の仕事も嫌がらない
- 収穫期が終わったあとの「燃え尽きない仕組み」を自分で作れる
逆に、毎日同じリズムで決まった時間に働きたい人にとっては、農家の働き方はかなりストレスになるはずです。向き不向きをもう少し具体的に知りたい人は、脱サラして農業に向いている人・向いていない人の特徴もあわせて読んでみてください。
就農後の収入面が気になる人は、脱サラ農家の年収の現実|売上があっても手元に残らない理由を読むと、売上と手取りのギャップを先に理解できます。
農家の仕事は「栽培」だけじゃない|販売と発信も大切な仕事
ここまで読んでもらうとわかると思いますが、いちご農家の仕事は栽培だけでは終わりません。育てたいちごをどう届けるか、どう知ってもらうかまで含めて「農家の仕事」です。
就農してから「お客さんが来ない」「直売所だけでは売上が伸びない」と悩む人が多いのですが、就農前〜就農1年目から発信を始めている人ほど、その悩みに早く抜け出せています。
SNS(Instagram・X)だけでもいいのですが、私自身の経験ではブログを1本持っておくと長期的に強いです。SNSは流れて消えますが、ブログ記事は何年もアクセスを集め続けてくれます。「脱サラして農家になる過程」「失敗談」「日々の気づき」を書き溜めておくと、お客さん・取引先・同業の仲間が自然に集まってきます。
私はブログをエックスサーバーで運営しています。WordPressのインストールが簡単で、表示速度も安定しているので、農家ブログとの相性は良いです。「就農と同時にブログも立ち上げておく」のが、結果的に一番ラクな進め方だと感じています。
SNS・ブログの使い分けで迷っている人は、農家はSNSとブログどっちをやるべき?7年目が答えますも合わせて読んでみてください。
まとめ:いちご農家の一日は「季節を分けて」見ると正体がわかる
いちご農家の一日は、収穫期・育苗期・定植期で別の仕事と言っていいほど変わります。
- 冬〜春は早朝収穫+出荷+観光対応で「分単位の忙しさ」
- 夏は地味な育苗と毎日の水やりで「精神的にきつい時期」
- 秋は定植・設備更新で「ピーク前の準備」
「華やかな収穫シーン」だけを見て就農すると、夏のギャップで折れる人が多いです。逆に、ここまで読んで「夏の地味な作業もそんなに嫌じゃないかも」と思えた人は、向いている可能性が高いと思います。
来園を考えている方へ
「実際の農園を見てみたい」「就農前にいちご狩りを体験したい」という方は、ぜひ丹羽いちご園に遊びに来てください。お客さんとしてはもちろん、「就農を考えています」と一言もらえれば、ハウスの中で実際の作業も少し見ていただけます。
就農を考えている方へ
「一日の流れはわかった。じゃあ実際にいちご農家になるには何から始めればいい?」という方は、就農準備の全体像をまとめた記事から読み始めると、次の一歩が見えてきます。

コメント