【農業ニュースへのいちご農家の本音レビュー】
埼玉のいちご農家が語る「農業政策論争」へのリアルな想い
いちご農家の朝は早い
埼玉で家族といちご農園を営んでおります、丹羽いちご園の丹羽です。
5月も半ば、気温も上がり、いちごの収穫もそろそろ終盤戦。
そんな慌ただしい日々の合間、ニュースで目にした「農業政策にメスを入れろ」という話題に、農業者として、経営者として、そして一人の人間として黙っていられず、ペンを取りました。
「農家=貧しい」は幻想なのか?
まず、率直な感想を言わせてもらうと「確かに…その通りだな」と思う部分と、「いや、それだけじゃないだろう」と思う部分、両方ありました。
ニュースでは「農家=貧しい」という幻想に日本人が縛られていると言っていましたが、これは確かに事実です。
うちもお客さんや知り合いから「農業って食っていけるの?」なんて真顔で聞かれることがあります。
でも実際は、きちんと経営すればしっかり利益は出せるし、工夫次第で売上は伸ばせます。
ただ、それは「本気でやっている農家」だけの話。
週末だけ畑に出る「家庭菜園延長農家」や、親の田んぼを年1回だけ機械でガーっとやって「農家気分」を味わっているだけの人たちも確かに多い。
それらの人たちが「日本の農家」としてまとめられてしまうことに、正直、違和感はあります。
苺農家として「プロ農家支援」に全面同意
ニュースの中で「本気のプロ農家を支援すべき」という主張が繰り返されていましたが、これには100%同意します。
いちご農家は、本当に「やるか・やらないか」の世界。
日々の気温、水管理、病害虫対策、土作り、苗作り、販売戦略、SNS発信…
365日、頭と体をフル回転させなければ、すぐに廃業に追い込まれます。
しかも、いちごは単価が高い代わりに、リスクも高い。
ちょっと手を抜けばすぐ病気になり、出荷が止まる。
観光いちご狩りなんて、リピーターと口コミで評判が落ちれば一発アウト。
「いちご農家で食っていく」と決めた以上、生半可な覚悟ではやっていけないのです。
だからこそ、本気で挑む農家を政策で支援し、
「農地を守りつつ、結果を出している農家にはしっかり恩恵を与える」
そういう方向性こそ、農業政策の本筋だと私も思います。
しかし「農地取り上げ」は現実離れしていないか?
一方で「農地をやらないなら取り上げろ」という主張には、少し引っかかるものを感じました。
確かに農地転用をエサに、農業をやっているフリだけして補助金だけもらう人がいるのは問題です。
でも、うちの地域でも「親から農地を引き継いだけど、どうしても農業が続けられない」「体力的にもう無理だけど、土地は守りたい」という高齢者もたくさんいます。
その人たちから「農地を手放せ」と言われたら、たぶん心が折れてしまうでしょう。
「農業委員会がなあなあで農地転用を認めてる」という現実も、正直あります。
けれど、強制的に取り上げるという極端な政策ではなく、
「プロ農家に貸し出しやすくする仕組み」や「農地活用のマッチング制度」をもっと進める方が、現実的だし、農地も守れるんじゃないでしょうか。
「農業法人化」と「企業参入」への期待と不安
法人化や企業参入についてもニュースでは「もっと自由化を」と言っていました。
これも理屈としては賛成です。
ですが、正直、農業はそんなに甘いものじゃありません。
いちご狩り一つとっても、お客さんを喜ばせるサービス力、いちごの味へのこだわり、
その土地ならではのファン作り、何より「天候」という読めない相手との戦いがあります。
机上の経営理論だけでどうにかなる世界じゃありません。
企業が入ることで「効率化」「大規模化」が進むのは良いですが、
地域や消費者との距離が遠くなり「儲かればいい」というだけの農業になってしまう危険性もあります。
農業は、食べ物を作るだけでなく、人の笑顔や地域の文化も育てる仕事。
効率だけではなく「顔が見える農業」をどう残していくか。
そこを真剣に考えないと、農業の本質が失われてしまう気がします。
いちご農家が見る「未来の農業」
私たちのいちご園も、決して大規模ではありません。
けれど、地域の子どもたちや家族連れに「おいしい!」「また来たい!」と言ってもらえること。
SNSを通じて全国からファンが増えていくこと。
そうやって、”顔が見える農業”を続けてきました。
私が思う理想の農業政策は、
「本気でやる農家にチャンスを与え、地域に根ざした小規模農家も守り、効率化・法人化も選べる」
そんな”選択肢のある農業”です。
大規模農家、法人、企業参入、それもいい。
でも、地域密着の家族農家や観光農園も、同じくらい価値がある。
両方が共存し、日本の農業を未来につなぐ道を探るべきではないでしょうか。
いちご農家から読者のみなさんへ
農業は「生き方」であり、「仕事」であり、そして「文化」そのものだと、私たちは信じています。
土を触り、太陽と風を感じ、作物と共に生きる——これは効率だけでは語れない、数字だけでは測れない、命の営みです。
最近、ニュースやネットでは農業を「産業」「ビジネス」としてどう成長させるか、どんな政策が必要か、そんな議論が盛んにされています。
もちろん、農業経営者として、そうした議論は避けて通れませんし、経営感覚なくして農業の未来はないと、私も痛感しています。
ですが、ひとつ忘れてほしくないのは、「農業には人の温度がある」ということです。
機械化や法人化が進もうと、農業は人が人のために作るもの。
作る人の顔が見えること、想いが伝わること、そして誰かの「おいしい」「また食べたい」に繋がること——
その小さな喜びの積み重ねこそが、農業を支える本当の力ではないでしょうか。
机の上で語られる政策論では決して見えてこない、
泥だらけになりながら、汗を流し、時には失敗し、落ち込むこともある。
けれど、それでも立ち上がり、畑に向かう農家の姿があります。
「また来たい」「ここのいちごが一番好き」と言ってくれるお客さまの一言に、何度も救われてきました。
この記事を読んでくださった皆さんに、ひとつだけお願いがあります。
どうか、農業を“誰か遠くの世界の話”だと思わず、ぜひ一度、農家の現場に足を運んでみてください。
旬のいちごを味わい、農家の話を聞き、泥だらけの手を見てほしいのです。
きっと、スーパーでは見えない「食の背景」が感じられるはずです。
私たちは、皆さんの「おいしい!」の笑顔に出会うために、今日もいちごを育てています。
いちご狩りのハウスで、真っ赤に実ったいちごと一緒に、あなたをお待ちしています。
また、いちご狩りでお会いしましょう。
🔗 参考元動画はこちら(YouTube)
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