【現場から読み解く農業経営のリアル】5月管理動画から学ぶ「経営判断」と「優先順位」
今回紹介するのは5月のいちご栽培の管理に関する現場レポートです。
この動画は単なる農作業の説明にとどまらず、農業経営の本質、そして“選択と集中”の大切さを強く訴えかける内容でした。本稿では、私が動画から感じ取った学びや考察を、農業従事者はもちろん、他業種の経営者にとっても参考になる視点で掘り下げてお届けします。
■ 経営の本質は「どこでやめるかを決める」こと
発言で最も印象的だったのは、「いちご栽培の終了時期を明確に決める必要がある」という言葉でした。これは農業に限らず、すべての経営に通じる重要なテーマです。
農業は「自然相手の仕事」です。しかし、だからといって“いつまでも続けられるから続ける”という姿勢は、必ずしも正解ではありません。5月以降の収穫物が市場で安値になること、人件費や経費との収支を見極めて「やめる」という判断も経営判断の一つであると説いています。
これは、まさに「撤退戦略」の重要性です。利益が出なくなったタイミングで、ただ“惰性”で続けるのではなく、明確な線引きをもって次のフェーズへと移行する。多くの企業経営者がこれを怠り、結果として体力を削られていきます。農業というフィールドにおいても、その鉄則は全く変わらないのだと改めて感じました。
■ 短期集中型経営という選択肢
もう一つ注目すべき点は、「春休みの観光シーズン」に向けて、3〜4月に大量のいちごを生産する体制をとっていたということです。これは典型的な「集中戦略」ですね。
観光農園というスタイルを選び、「お客様が最も来る時期」に向けて収量を最大化する。そのために株をフル稼働させ、ピーク後は無理に延命させない。これは、いわば「シーズナルビジネスの鉄則」を徹底した戦略です。
この選択にはリスクもあります。天候により集客が不安定になる、収穫量が読みにくくなる、といった要素です。しかし、それ以上に「限られたリソースを最大効率で使う」という考え方には深く共感します。
中小企業や個人事業主は、資源に限界があります。その中で「一年通して平均的に売上を立てる」ことを目指すのではなく、「勝てる時に勝ち切る」スタイルも立派な戦略であると、この動画は教えてくれます。
■ 株の疲弊と手入れの限界:人間と同じく“限界”はある
動画の中で、何度も「株が疲れている」と語っていました。そして「もうこれ以上は無理に手入れしなくていい」「疲れたら手を抜いてもいい」といった、現場ならではのリアルな言葉を口にしています。
これは、まさに“限界管理”の発想です。
どんなに頑張っても、体力にもリソースにも限界はあります。株にとっては、4番果、5番果まで実をつけてきた時点で、もう相当なエネルギーを使い果たしている状態。そこで無理に次を期待するのではなく、次年度に向けて準備に入る。この切り替えは、組織運営においても同じです。
例えば、売上ばかりを追いかけて現場スタッフが疲弊してしまっては、長期的には組織が持ちません。あるいは、古くなった設備を無理に使い続けて故障するリスクを抱えるのも同様です。大事なのは、「現状を冷静に評価し、やめ時を決める」という冷静な判断。
そして何よりも、疲れたときは“雑でもいいから手を抜く”というアドバイスには、思わず笑ってしまうと同時に救われるような思いもしました。真面目な人ほど「ちゃんとやらなきゃ」と自分を追い込みがちですが、農業のような重労働においては、少し肩の力を抜くことも必要なのです。
■ 優先順位の明確化:目の前の収穫と未来の育苗、どちらが大事か
5月から6月にかけての農園では、「本圃の管理」と「育苗」が並行して発生します。これもまた、重要な選択を迫られる場面です。動画では、「もし売上目標を達成しているなら、育苗作業に注力せよ」と明言されていました。
この判断こそが、“未来への投資”です。
目の前にあるいちごを収穫すれば、確かにすぐに現金が手に入ります。しかし、育苗が疎かになれば来シーズンのスタートダッシュに失敗します。短期と長期のバランスをどう取るか、それは経営における永遠のテーマです。
多くの経営者が、短期利益の追求に傾きすぎて、気づけば次の成長の芽を摘んでしまうという過ちを繰り返します。しかし、長期的に組織を持続可能なものとするためには、「今やるべきこと」と「後回しにすべきこと」を峻別する力が必要です。
この点、「優先順位を間違えると本末転倒になる」という言葉には、現場で数々の意思決定をしてきた者ならではの重みがありました。
■ 病害虫対策は「最後の砦」
動画の終盤では、病害虫のリスクについても強調されていました。特に、アザミウマやスリップスの被害は致命的であり、これが発生してしまうと“すべてが無駄になる”という厳しい現実も語られました。
これは、企業における「信用リスク」や「レピュテーションリスク」にも通じます。
日々の努力を積み重ねても、最後の最後で致命的なトラブルが起きれば、すべてが水の泡になる。だからこそ、どんなに疲れていても“最後の砦”だけは守らなければならない。経営者としての責任と覚悟を感じるシーンでした。
■ まとめ:経営とは「手を引く勇気」と「注力する勇気」のバランス
今回の動画から学べることは、単なる農作業のノウハウ紹介ではありませんでした。それは、まさに“経営”そのものであり、どの業界に身を置く者にとっても本質的な気づきが詰まったリアルな現場レポートだったと強く感じます。
経営とは、常に「選択」の連続です。続けるのか、やめるのか。力を注ぐのか、引くのか。これは農業に限った話ではありません。店舗運営、製造業、IT企業、サービス業……どんな業種にも通じる、判断と実行の連続。それが経営という営みの核心です。
私は以下の5つの教訓を得ることができました。
● いつやめるかを決める
惰性で続けることほど、経営資源の浪費はありません。採算が取れない、成果が望めないと判断したなら、潔く手を引く。その判断は冷酷ではなく、むしろ次の一手を強くするための“戦略的撤退”です。やめるという選択肢を恐れず、明確な基準を持って終わらせる勇気こそが、経営者の器を問う瞬間です。
● 集中すべき時期に全力投球する
チャンスは一年中あるわけではありません。収穫期のように、短期間で最大の成果を狙う場面では、あらゆるリソースをそこに集中させる。勝負のタイミングを見極め、全力で打ち込む。この「集中力」は、どんなに小さな組織にも勝機をもたらします。
● 疲れたら無理しない
経営者も人間です。現場も限界があります。頑張りすぎて壊れてしまっては意味がありません。ときに“雑でもいい”“完璧じゃなくていい”という柔軟さは、持続可能な経営には欠かせない視点です。人も、組織も、ほどよい余白を持ちながら走ることが、長く続けるためのコツだと再認識させられました。
● 優先順位を明確にする
目の前の収穫と、来季の準備。どちらが重要かを正しく見極める「目利き力」が問われます。すべてをやろうとするのではなく、「今、本当にやるべきこと」を選び取る。その意思決定こそが、事業の将来を決めます。これは経営者にとっての“羅針盤”であり、手綱を握る覚悟そのものです。
● 最後の砦は死守する
たとえリソースが足りなくても、最低限守るべきラインがあります。農業でいえば、病害虫の対策。企業でいえば、顧客との信頼関係やブランドの信用です。ここが崩れれば、すべてが一瞬で無に帰します。だからこそ、どれだけ疲れていても“ここだけは譲らない”という信念を持ち続ける必要があるのです。
これら5つの教訓は、農園経営にとどまらず、事業運営全体に通じる“経営の原理原則”です。
私たちが仕事をしていく中で、時に迷い、揺れ、立ち止まることもあるでしょう。そんなとき、現場から発せられるリアルな言葉──今回でいえば、サムさんのような一次情報の声──こそが、私たちに確かな指針を与えてくれます。
数字や理論だけではなく、実際に手を動かし、汗を流してきた人の言葉には、机上の空論では得られない“説得力”と“人間味”があります。
経営とは、冷静な判断と情熱の両輪。
そして、「手を引く勇気」と「注力する勇気」のバランス。
その微妙な舵取りこそが、経営者としての真価を問われる瞬間なのです。
農業の現場に敬意を込めて。
そして、今この瞬間も現場で奮闘するすべての働く人々へ、ささやかながらのエールとなれば幸いです。
🔗 参考元動画はこちら(YouTube)
コメント