「定年後は農業をやってみたい」「会社員をしながら副収入を農業で得たい」――そんな思いを持つ方が増えています。私は埼玉県吉見町でいちごを栽培する農家ですが、もともとは工場勤務やトラックドライバーとして働きながら農業の準備を進めてきた一人です。
兼業農家として始めた当時は、夜勤明けにそのまま農作業へ向かう日も珍しくなく、睡眠を削りながら乗り越えた時期もありました。しかし、あのころの苦労があったからこそ今があると感じています。
この記事では、会社員が農業を副業・兼業で始める具体的な方法と、実際に経験した注意点をお伝えします。「農業って難しそう」「どこから始めればいいかわからない」という方にこそ、読んでほしい内容です。
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私が会社員をしながら農業を始めた理由
将来への漠然とした不安が、農業を始めるきっかけになりました。
私が農業に本気で向き合い始めたのは、工場勤務をしていたころです。毎日同じラインに立ち、同じ作業を繰り返す中で、「この先、自分はどうなるんだろう」という思いが少しずつ大きくなっていきました。
工場で見た「寂しい定年退職」が転機になった
引き継ぎもなく去っていく先輩の姿を見て、「このまま会社に人生を預けていいのか」と真剣に考えました。
その先輩は長年、職場の誰もが頼りにするベテランでした。定年が近づいたころから「引き継ぎをしたい」と希望していたにもかかわらず、会社の都合で引き継ぎは行われないまま退職の日を迎えました。当日は特別なセレモニーもなく、ひっそりと職場を去っていった――その光景が頭から離れませんでした。
「自分も同じような最後を迎えるのだろうか」「会社に人生を預けるだけでいいのか」と考えたとき、自分の力で何かを育てる農業が頭に浮かびました。農業なら、自分が動いた分だけ結果が出る。定年がなく、自分のペースで続けられる。そう感じたのが、農業を始めようと決意した出発点です。
「将来に備えるために何かを始めたい」という思いは、農業を志す人に共通するものかもしれません。早めに動き出すほど、選択肢が広がります。
兼業農家として農業を始める具体的な手順
農業を始めるには、農地の確保・技術の習得・資金の準備を同時に進めていく必要があります。
「農業をやってみたい」と思っても、最初の一歩が分からない方は多いはずです。私自身もそうでした。ここでは、兼業農家として農業を始めるための基本的な流れを紹介します。
まずは農地の確保と農業研修から
農地は「借りる」のが現実的で、農業委員会や農地バンクに相談するのが最初の一歩です。
日本では農地を購入するには農業委員会の許可が必要で、いきなり土地を買うのはハードルが高いです。最初は農地を借りることから始めるのが現実的です。農業をしたい地域の「農業委員会」か「農地中間管理機構(農地バンク)」に相談すると、使われていない農地(遊休農地)を紹介してもらえることがあります。
農業の技術を学ぶための研修も早めに始めましょう。各都道府県の農業大学校や農業改良普及センター、JAが主催する研修があります。週末だけ参加できる短期研修もあるので、会社員の方でも参加しやすい機会を探してみてください。
農業を始める前に足を運んでほしい場所:①市区町村の農業委員会(農地の相談)、②農地バンク(農地中間管理機構)、③地域のJA(研修・資材の相談)、④農業改良普及センター(技術指導)。まず相談に行くだけでも、多くの情報が集まります。
資金計画と使える補助金の基本
農業には初期費用がかかるため、事前の資金計画と公的支援制度の確認が重要です。
農業を始めるにあたって、避けて通れないのが初期費用の問題です。いちご栽培の場合、ハウスの設置・苗の購入・農機具などで数百万円かかることもあります。会社員のうちから計画的に貯蓄を進めることはもちろん、国や自治体の補助金制度も積極的に活用を検討しましょう。
代表的なのは「農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)」で、一定の条件を満たすと年間最大150万円の給付が受けられます。また、日本政策金融公庫の農業向け融資制度も低金利で借り入れができるため、農業を始める前に確認しておく価値があります。
| 支援制度名 | 内容 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 農業次世代人材投資資金 | 年間最大150万円の給付 | 49歳以下の新規就農者 |
| スーパーL資金(農業経営基盤強化資金) | 低金利融資(最大3億円) | 認定農業者 |
| 農の雇用事業 | 雇用就農者1人あたり最大年間120万円 | 農業法人等 |
仕事と農業の両立で一番きつかったこと
兼業農家として働く時期は、体力的・精神的に厳しい局面があることを覚悟しておく必要があります。
「農業をやりながら会社員を続ける」というのは聞こえはいいですが、実際には相当な体力と精神力を要します。私自身、兼業時代に一番きつかったのは「睡眠」の問題でした。
夜勤トラックドライバー時代の乗り越え方
「ずっと続くわけではない」と割り切り、今できることに集中したことが精神的な支えになりました。
農業の準備を進めていたころ、私はトラックドライバーとして夜勤の仕事をしていた時期があります。夜中に仕事を終えて帰宅し、少し休んだら農作業へ向かう――そんな生活が続いていました。正直に言えば、睡眠を削るしか時間を作る方法がありませんでした。
それでも続けられたのは、「この生活がずっと続くわけではない」という見通しがあったからです。農業の準備が整えば、会社の仕事のスタイルを変えられる。今は踏ん張りどころだと自分に言い聞かせ、根性で乗り切りました。体力的には限界に近い時期もありましたが、「なぜ農業を始めたいのか」という理由が明確だったことが、やめずに続けられた大きな理由です。
きつい時期を乗り越えるコツは「終わりを決めること」。「〇〇の準備が終わるまで」「△△が整うまで」と期限を設けると、精神的な余裕が生まれます。終わりの見えないがんばりは続きません。今の苦労が将来につながると実感できる目標を持つことが大切です。
専業農家に切り替えるタイミングの考え方
専業に切り替えるタイミングは、農業が本格的に動き出し「会社の仕事がなくても農業が回る」と感じたときが一つの目安です。
兼業農家として始めた人が次に悩むのが「いつ会社を辞めるか」という問題です。早まれば収入が不安定になり、遅すぎれば農業に集中できず中途半端になってしまいます。
私が専業に踏み切った判断基準
私の場合、いちごの定植(苗を畑に植えること)が終わり、農業が本格的に動き始めたタイミングで専業に切り替えました。
私がトラックドライバーの仕事を辞めて農業に専念したのは、農業の準備がひと段落して、いちごを定植した後のことです。「準備だけしている状態」と「実際に作物が育っている状態」では、農作業にかかる時間も責任感もまったく違います。苗を植えてからは毎日の水やりや管理が欠かせなくなり、会社の仕事と両立するのが現実的に難しくなりました。
「農業が本格的に動き始めたこと」を専業のきっかけにしたのは、振り返っても正しい判断だったと思います。逆に言えば、農業がまだ「家庭菜園レベル」の規模のうちは、会社の収入を手放す必要はないかもしれません。収入の見通しが立ってから動くのが、リスクを抑えた方法です。
なお、現在は農業のほかにフードデリバリーの仕事もしています。農業だけで生計を立てることへの不安もありましたし、農閑期(農作業が少ない時期)の収入を補う意味でも役立っています。完全な専業でなく「農業がメイン+小さな副収入」という形も、一つの選択肢として考えてみてください。
会社員が農業を始める前に確認しておくこと
会社の副業規定と農地法の基本を事前に確認しておくことで、後のトラブルを防げます。
「農業を始めたい」という気持ちが固まったら、実際に動き出す前にいくつか確認しておきたいことがあります。準備不足のまま進めると、あとで予期せぬトラブルになることもあります。
勤務先の副業規定と農地法の基本
農業であっても副業に当たる場合があるため、勤務先の就業規則を事前に確認しておくことをおすすめします。
近年、副業・兼業を認める企業は増えていますが、まだ禁止している会社もあります。農業は「農業所得」として確定申告が必要になるため、会社に副業として把握されることがあります。就業規則に「副業禁止」と記載されていた場合は、まず上司や人事部に相談するか、規則改定を待つことも一つの方法です。
また、農地を借りたり買ったりするには「農地法」という法律があり、農業委員会の許可が必要です。農地でない土地(市街地など)で農業を始めることはできないため、農地の確保は法律の手順に沿って進めることが大切です。
農業収入が安定するまでの期間感
農業の収入が安定するまでには、最低でも2〜3年はかかることを前提に計画を立てるのが現実的です。
農業は、種を植えてすぐに収入が得られるわけではありません。いちごの場合、苗を植えてから収穫できるまで約8〜9か月かかります。さらに、どこに売るかという「販路の確保」や、栽培技術の向上にも時間がかかります。
会社員として働きながら農業を始める最大のメリットは、「農業の収入が少ない時期でも、会社の給料で生活できる」ことです。農業収入だけで生活できるようになるまでの期間を、会社員として稼ぐ期間として位置づけましょう。焦って専業に切り替えると、生活が苦しくなりやすいです。
農業を始める前に確認すること チェックリスト:□ 勤務先の就業規則(副業禁止条項の有無)、□ 農地の確保先(農業委員会・農地バンクへの相談)、□ 初期費用の見通しと現在の貯蓄額、□ 利用できる補助金・融資制度の調査、□ 農業研修への参加スケジュール
まとめ
会社員が農業を副業・兼業で始めることは、決して簡単ではありませんが、正しい手順を踏めば着実に前進できます。
私自身、工場で見た先輩の定年退職の姿に背中を押され、睡眠を削りながら兼業農家としての道を切り開いてきました。農業の準備が整い、いちごの定植を終えたタイミングで専業に切り替え、現在はフードデリバリーも組み合わせながら農業を続けています。
大切なのは、「今の苦労はずっとは続かない」と信じて準備を続けることです。農地の確保・研修・資金計画・会社の規定確認を一つひとつクリアしていけば、農業は決して遠い夢ではありません。
この記事が、農業への一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。いちご栽培について詳しく知りたい方は、ぜひ以下の関連記事も参考にしてみてください。
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